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山本太郎氏の緊急政策「都立病院の独法化中止」に反対します

~「地方独立行政法人 神奈川県立病院機構」は失敗なのか~

先日、山本太郎氏の東京都知事選挙出馬会見において、神奈川県の県立病院は「独法化で赤字が膨らんだ」とし、都立病院の独法化を中止すべきという主旨の発言をしていた。そこで、『神奈川県立病院の独法化(地方独立行政法人神奈川県立病院機構)は失敗なのか』について検証していく。

 

先に言っておくと、最終的に筆者は「独法化は失敗ではない」という結論に至った。

堀口陸夫著『公立病院改革の闇(幻冬舎)』によると、検証した独法化した10病院のうち9病院で全体負担額(税金投入額)の縮小がみられ、神奈川県に至っては50億円以上の削減効果があったという。また、「地方独立行政法人神奈川県立病院機構」として独法化をした平成22年の経常利益は前年比10億円以上増加の14億5500万円にも上った。つまりご多分に漏れず大成功を収めたと見てとれる。

 

ところが、神奈川県立病院機構の損益には2つの大きな変化が生じ、山本太郎氏指摘のように赤字に転落しているのだ。

⑴平成25年19億円の最終赤字

⑵平成28年20億円以上の経常赤字常態化

⑴平成25年の最終大赤字の要因は?

平成25年に19億円もの最終赤字に転落したわけだが、5.6億円の経常黒字を計上しており、臨時損失(特別損失)が先述の最終赤字の要因なのである。臨時損失(特別損失)については、がんセンターによる部分が殆どで、神奈川県立病院機構が平成25年の事業報告書で「PFI事業者への委託料の増加や移転経費等により、費用全体で39億7,100万円増加した。」と、同年の財務諸表等では「がんセンター新病院建替移転に伴い、今後の使用予定がないため、減損損失を認識しております」と言及したように、新病院建替移転に伴う19億円もの減損損失が影響したのである。この減損処理の適切性については、検証困難であるため深掘りしないが、一般論としてこれは臨時損失(特別損失)であり、あくまでも経常黒字である以上、独法化を赤字の要因だと見做すことには無理がある。

⑵平成28年以降の常態的な経常赤字の原因は?

❶運営費負担金の過度な削減

足柄上病院を除いて医業収益は右肩上がりになっている。その一方、足柄上病院とがんセンターにおいて運営費負担金収入(自治体からの資金注入)は減らされている。つまり、経常赤字には、事業規模拡大の一方で、公的な資金注入が減らされていることが大きく影響している。特にその傾向はがんセンターにおいて大きく影響している。

では、足柄上病院とがんセンター(病院)の運営費負担金を、①平成25年の金額のまま維持した場合、②平成25年の水準をもとに医業収入に比例させた場合の2パターンを検討する。

まず①の場合、平成30年には合計7億円以上の収入底上げがなされることになる。次に②の場合、平成30年度には合計20億円以上の収入底上げがなされることになる。

収益は、運営費負担金の注入額のさじ加減一つで大きく変動するものであり、病院経営においては「経常赤字≠経営の失敗」なのである。そして地方独立行政法人神奈川県立病院機構のでは、平成22年の独法化に伴い前年比約15億円の運営負担金削減を果たしたのだが、その後に経営効率化効果以上に運営負担金を縮小させ過ぎ、これほどの経常赤字になったのである。つまり、独法化そのものが失敗であったわけではないのである。

❷神奈川県立がんセンターの重粒子治療施設の失敗?

神奈川県立病院機構の経常赤字には、がんセンターの重粒子治療施設(平成27年開設)の経常赤字も大きく影響している。もともとの計画では、平成30年には赤字幅を大きく縮小し、31年以降黒字化し、令和4年度には累積黒字化することが予定されている。しかし、平成30年において赤字幅の縮小はできておらず、収支は計画と乖離している。そしてその要因は患者数が伸びていないことである。計画では平成30年には500人の治療、令和4年には800人もの治療が予定されているが、実際には平成30年の治療患者数は271人にとどまった。その原因としては、組織内で不和があり(ネット上には様々な噂が流れているがいずれも真偽不明のため言及は避ける)放射線専門医の退職が相次ぎ、マンパワー不足が生じたことが大きいようである。ただ、これも独法化そのものが原因であるとは言い難く、医師不足が解消すれば計画の軌道に乗るということであれば、大きな赤字が続いているものの累積赤字額は計画を下回っており、長期的に見れば大きな問題ではないだろう。

 

以上まとめると、神奈川県立病院機構の赤字は、①建て替えに伴う減損損失、❶運営負担金の絞りすぎ、❷重粒子治療施設のもともと赤字が見込まれていた助走段階政治的問題が重なり、滑走時間が少々長引いていることが主な要因であると考えられる。そしてそのいずれもが、独法化そのものが原因であるわけではない(独法化そのものは成功だと筆者は考える)。つまり、山本太郎氏の、都立病院の独法化の反対理由として神奈川県をその失敗例として挙げるのは不適当なのである。誤った主張に世論がミスリードされて医療の適切な機能強化と効率化が阻まれるというようなことなく、充実した医療を適切な負担で受けられる社会に、より一層進んでいくことを筆者は強く望んでいる。

関東学生部 Kota

 

掲載グラフ資料

順に、「損益・純損益の推移」:地方独立行政法人神奈川県立病院機構 平成22年度事業報告書より掲載

無題:地方独立行政法人神奈川県立病院機構 平成30年度事業報告書より掲載

「医業収益」「運営負担金」「医業収益/運営負担金」「がんセンター」:地方独立行政法人神奈川県立病院機構 過去の財務諸表等・事業報告書より筆者作成