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新自由主義は格差の拡大を招いたか – 小泉政権の構造改革をテーマに

1.概要

1980年以降、サッチャー、レーガンや中曽根、小泉純一郎など新自由主義的政策をとる政治家が多く現れた。そしてそのような政策が格差の拡大を招いたという批判がある。本レポートではこのような新自由主義的政策が真に格差の拡大を招いたのかどうか、小泉政権で行われた構造改革をテーマに、大竹文雄の「格差の拡大は高齢化による」という仮説の元で検証した。その結果、格差の拡大が小泉構造改革によるものだという確たる証拠はなく、高齢化などの別の原因があるという結論が出た。この結果を、近年よく見られる安易な新自由主義批判への警鐘としたい。なお、本レポートでは「格差」を「貧富の差」として定義する。

 

2.序論

そもそもなぜ格差の拡大が経済に悪影響だと批判されるのだろうか。アメリカのように格差が大きくてもGDP(※国内総生産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値)も経済的に豊かとされる国もある。これを議論するためには、まず経済とはそもそも一体何か、というところに立ち返る必要がある。カール・ポランニーによれば、経済には形式的な経済と、「実体―実在としての経済」の二つがある。実体―実在としての経済とは、家計、農林水産業、工場、職場、企業といった例が主体として挙げられる現実に行われている生産、消費の活動であり、ポランニーによれば「人間と自然環境の間の制度化された相互作用」である。そして形式的な経済とは本来、金融や株式会社のような、実体-実在としての経済を機能させるために考え出された仕組みや分析枠組みであった。しかし、しばしばその形式的な経済が、実体―実在としての経済を飲み込んでしまったり、実体―実在としての経済から乖離してしまったりすることがある。例えば資産運用の失敗や為替の変動によって実体―実在としての経済の主体である企業が倒産してしまう、あるいは生産のための技術である原子力発電が事故を起こして周辺地域の住民が避難を強いられ、その地域の経済に甚大な被害を及ぼす、といった具合である。格差が拡大すれば貧困層は必然的に増えるのである。実体としての経済が生産、消費 の活動である以上、国民の所得が低下すると、当然経済的な損失となる。それだけではなくさらに、所得の低下は循環するのである。一般的に貧困が生じると、将来の生活保障として多産化が起き、それによって教育費が不足して貧困が再生産される、というプロセスが生じる。これを貧困の悪循環という。しかし十分に義務教育が行き届いた先進国では逆のことが起きる。所得の低下によって教育費が不足し、それが少子化を招く。そして少子化によりやがて生産年齢人口が減少し、労働生産率が低下する。そして所得が低下する、という循環である。さらに貧困層の増大が治安の悪化を招き、それにより治安維持のコストが増大するなど、その影響は計り知れないと言われている。

 

3.本論

そもそも小泉政権時代に行われた構造改革とはどういうものだったのだろうか。野口旭・田中秀臣の『構造改革論の誤解』によると、このように記述されている。「構造改革とは何か。資源配分の効率性改善へのインセンティブを生み出すような各種の制度改革であり、具体的には、公的企業の民営化、規制緩和、貿易制限の撤廃、独占企業の分割による競争促進政策などがそれにあたる。それによって、一国経済において、資本や労働という生産資源の配分が適正化され、既存の生産資源の下でより効率的な生産が達成される。すなわち、潜在GDPないしは潜在成長率が上昇する。」つまり、この構造改革とは、規定緩和などの手段によって競争を促進させることで潜在GDPを上昇させる政策である。なお金融広報中央委員会によると規制緩和とは、「経済活動に対する政府のさまざまな公的規制を廃止・緩和すること」を指す。小泉政権で行われた規制緩和には次のようなものがある。

・酒類、卸売市場、銀行等における新規参入についての需給調整規制の撤廃

・会社法を改正し、株式会社の最低資本金を1円に

政府は需給調整の観点から参入規制、輸入規制、価格統制などを行い、また国民の安全や環境の保全といった観点からも規制を行っている。しかし過去には意義があった規制も、時代の変化によって意義が薄れてしまい、その規制によって利益を受けている者の既得権益となっているものもある。「そのような規制を緩和・廃止することで自由競争を実現し、生産性を高めることがそのような規制を緩和・廃止することで自由競争を実現し、生産性を高める。これにより消費者の選択の自由が高まる一方、電力自由化とその後の価格高騰やカリフォルニア電力危機のように、特にインフラ関係の規制緩和が原因で住民の生活に大きな支障を与える場合がある。

さて、小泉政権ではこれらの規制緩和により、地方の景気や雇用の掘り起こしがなされた。ほかに小泉政権で行われた具体的な改革として挙げられるのが、公務員の削減と民営化である。2001年に行政機関に84万人、特殊法人に43万人いた国家公務員は、66.4万人にまで減少した。また、日本郵政公社を日本郵政グループへと民営化した。そして、今回焦点をあてていくのが、労働基準法を改正し、期限付き労働契約を1年から3年に延長、労働者派遣法を改正し製造業の派遣を解禁した雇用の流動化政策である。このように、小泉構造改革は、「個人の経済的自由や市場原理を重視し、国家による介入は最小限度にすべき」という、1980年代以降先進国の主要経済政策として採用されていった新自由主義の考え方に基づいた改革であったといえる。新自由主義的政策の例としては、1980年代にアメリカのレーガン大統領が行ったレーガノミクスが挙げられる。この政策では、減税や規制緩和によって供給面から経済を刺激し、アメリカ史上3番目に長い好景気(戦争景気を除く) 。

さて、ここで問題となっている小泉政権による雇用の流動化政策に話をもとに戻すと、この結果、非正規雇用労働者の割合は2002年には29.4%だったのが2015年には37.5%にまで増加した。そして正社員と非正規労働者の賃金格差も、年代別だと50~54歳では月の平均賃金に19万6千円もの差がある。また、30代後半の男性の平均年収は、2002年には558万円だったのが2009年には497万円にまで減少した。このように、小泉構造改革の一環である雇用の流動化によって非正規労働者が増加、格差が拡大し、その影響でリーマンショックによって引き起こされた不景気とデフレから脱却できていない、というのが小泉構造改革に対する主な批判である。しかし、この批判は完全に正しいわけではないと考える。大竹文雄によると、格差拡大は高齢化に伴う現象で、高齢化の影響を調整してみると、格差は広がっていないというのが多くの経済学者の分析結果だという。さらに大竹は、所得の差は年齢が上がるにつれて開いていくため、もともと高齢者はほかの年齢層に比べて格差が大きく、高齢化で所得のばらつきが大きい人々が増えれば、社会全体の格差も広がると主張する。

それを検証するために、上の年齢ごとのジニ係数(経済格差の指標。※所得の分布について、完全に平等に分布されている場合と比べてどれだけ偏っているかを、0から1までの数値で表したもの。完全に平等であればジニ係数は0となり、1に近くなるほど不平等度が大きくなる)を参照する。これによると、40歳代以下を除いて、年齢ごとの格差はむしろ縮小している。年齢ごとの格差が縮小しているのにもかかわらず、全体の格差が拡大しているのは、格差が大きい傾向にある高齢者が増えたから、すなわち日本の高齢化が進んだからであると考えられるのである。つまり、格差拡大の原因となっているのは小泉政権が行ったような新自由主義的な構造改革ではなく、むしろ従来の年功序列型の雇用だといえる。もし年功序列型の雇用がなければ、高齢者になるほど所得のばらつきが大きくなる、というような傾向もなくなるはずだからだ。一方若年層のほうは2004年に格差が拡大している。これはなぜだろうか。この理由については、「90年代後半以降、若年層の所得格差が拡大したのは、正社員になれた若者とフリーターの若者の所得格差が大きかったからだ。正社員同士の格差より、正社員とフリーターの格差の方が大きいから、正社員になれない若者の比率が高まれば、所得格差は拡大する。そうなった最も大きな理由は、90年代は景気が悪かったからだ。」と原田泰が説明している。実際に、景気が回復していたリーマンショック前の恩恵によって、2009年には格差が縮小している。30歳代の格差は09年でも拡大しているが、これはそれ以前のバブル崩壊による「失われた10年」の影響を引きずっているものと考えられる。

このように、格差とは景気が回復すれば縮小する傾向にあるのだ。実際に、一人あたりGNPの大きい国、つまり経済成長が進み景気が良い国ほどジニ係数は0に近く、格差が小さい傾向にある。日本のジニ係数は現在でも先進国の中でもかなり低い部類に入り、小泉政権の構造改革によって格差が拡大したという指摘は正確ではないといえる。実際に、大竹文雄は「もし派遣労働が自由化されていなかったら、さらに悪い雇用形態に甘んじるか失業するかしか選択肢がなく、経済格差はもっと広がっていた。」と指摘している。また、小泉政権の構造改革の功績として忘れてはいけないのが金融政策である。金融政策とは、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するため、通貨および金融の調節を行うことであり、その調節にあたっては、公開市場操作(オペレーション)などの手段を用いて、長短金利の誘導や、資産の買入れ等を行っている。具体例として、2010年代に安倍前首相が行った経済政策「アベノミクス」の第一の矢である、預金準備率の引き上げによる大規模な量的金融緩和が挙げられる。そしてこの先駆けとなったのが、01年から06年まで続いた量的緩和政策であり、それによって為替レートが安定し、輸出と投資が伸び、日本の実質GDP成長率は2%に高まった。これはリフレーション(通貨再膨張学説)、つまり金融緩和による利子率の低下が投資増大を引き起こし、それによる物価上昇がインフレ期待を形成し、投資を促進するという考え方によるもので、こちらはむしろケインズ経済学の考え方に近い。このように小泉政権の構造改革は、ケインズ経済学やリフレーション学派、そして新自由主義という多様な学派の考えを取り入れたアベノミクスの先駆けとなったという一面もある。

 

4.結論

このような検証の結果、小泉政権の構造改革、中でも雇用の流動化が格差の拡大を招いたという指摘は正確ではないことがわかった。むしろ小泉政権の構造改革による好景気によって、格差は縮小していた上に、格差が拡大していたように見えたのは従来の年功序列型の雇用が原因であったのである。以上のことから、新自由主義的な政策は格差の拡大を必ずしも招くわけではない、という結論が導かれた。しかし今でもインターネットを中心に、「小泉政権の構造改革が格差の拡大を招いた。その中でもブレーンとして中心的役割を果たした竹中平蔵が今も政府のブレーンとなり、新自由主義的政策で雇用を破壊し格差を拡大させようとしている」といった言説が蔓延している。このような事実ではない誤解によって、社会保障費の抑制や規制緩和、雇用の流動化といった真に必要な改革が行いにくくなっている。誤った認識が日本を動かしてしまうと、日本は誤った道を進むことになってしまう。そのような未来を強く憂慮し、誤った言説が蔓延する現状に強く警鐘を鳴らして、本文章の結びとしたい。

 

5.今後の課題

本レポートでは、格差が拡大した背景に高齢化及び年功序列型の雇用があると指摘した。ただし、世帯構造の変化や親の所得との関係・IT化の発展など、格差が拡大する原因は他にも数多く存在する(※)。今後は、原因のさらなる解明及び格差の是正対策についても、多様な視点から論じていきたい。

 

6.参考文献

総務省「全国消費実態調査」

 

大竹文雄『日本の不平等』第1章、日本経済新聞社、05年

 

原田 泰 『誤った認識で3本の矢を狂わせるな』経済の常識 VS 政策の非常識 WEDGE Infinity

https://wedge.ismedia.jp/category/keizainojyoushiki

 

知るぽると 金融広報中央委員会

https://www.shiruporuto.jp/public/

 

SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集」

https://www.smbcnikko.co.jp/terms/index.html 

 

内閣府「第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題」

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/pdf/p030101_01.pdf

 

白波瀬佐知子.人口構造の変化と経済格差.日本労働研究雑誌.2018,No690,p44-54.

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/01/pdf/044-054.pdf