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沖縄の社会運動の社会的使命とは 〜アベマの議論を受けて〜

序章 問題はどこにあるのか

 「2ちゃんねる」創設者であるひろゆき氏が2022年10月3日に投稿した辺野古基地の座り込み日数についてのツイートは、右派・左派問わず大きな波紋を広げた。そしてこのツイートを受けて、アベマプライムは基地問題について議論の場を設けた。そして今回はこの議論で露呈した沖縄の社会運動、そして社会運動家の実態について触れていきたい。ただし、今回の主張はスペースの都合上、アベマプライムにおいて展開された議論のみを対象にしたものであることをご了承いただきたい。 

 今回のひろゆき氏が投稿したツイート、ならびにアベマプライムでの社会運動の実態や社会運動家を視るに、彼らは自らの役割を果たさず、ただ「やっている感」を出しているだけだと考えられる。そう考える理由を述べていきたい。 

第1章 社会運動とは何か 

 まず、社会運動の定義について確認していきたい。社会運動とは、「広義には、社会変動の原因ないし結果として生ずる社会的危機を解決する意図をもって動員される組織的行動もしくは集合行動」のことを指す。つまり、社会問題を解決する目的を持って集まり、集団で社会に訴える行動といえよう。今回であれば、辺野古移設反対を掲げて“座り込み“をする行動が当てはまる。

第2章 社会運動の社会的役割

それでは、この社会行動はどのような社会的役割が期待されているのであろうか。上野・中西(2008)によれば、「『当事者になる』ことは、みずからニーズの主体となり、社会がそれを満たす責任を要求するクレイム申立活動と不可分である」という。つまり、社会運動は自分達が当事者に共感をして、「こんなニーズを持っているが、それが満たされていない。社会(国家や企業)はこのニーズを満たすべきだ。」と主張する役割を持つことができる。簡潔に表現するのであれば、社会運動は民主主義を成り立たせる一つのツールであるといえよう。しかし「ニーズが満たされていない。これは問題だ」と認識できなければ、問題を問題とも思わず、無視され続けることになる。小熊(2018)は「『問題』はもとからあるものではなく、誰かが声を上げ、コミュニケーションによってそれが認知されていくことで、「問題」として構築されてくる。」としている。つまり、人々が「これは問題だ」と思わせるためにはコミュニケーションが必要になるのである。このことから本来の社会運動は「このニーズが満たされていないから満たしてくれ。」と周りの人々とコミュニケーションをして共感者を増やしていく必要がある。そうすることによって、社会的な影響力を身につけていき、社会にそれを受け入れさせる役割があるといえよう。 

第3章 社会運動の評価と課題 

 これを基に沖縄の辺野古基地移設反対の社会運動・社会運動家を評価してみよう。すると、彼らの社会的使命が果たせていないことに気づく。加えて今回のアベマプライムの議論では、基地移設反対運動に肯定的な論者の排他的な発言が目立った。具体的には、宮原が「現場で戦っている人たちっていうのが、「座り込み」という名前で呼んでいるその抗議活動に対して何の敬意もなく、・・・多数派の日本人がこういう風に思っているはずのことなんだっていうことの認識を押し付けて、・・・憤り覚える」(21:16-21:57)とか、阿部が「多数派がそういうふうに思ってしまうから、・・・それに理解してもらえるようにしろってことなんですけども、・・・説明しろとか、俺にわかるように言えとか、そうじゃないと共感ねーだろとかですね。それは、なんでそこでお客様目線なんですかっていうことは思いますね」(34:40-35:18)などと言って深い議論を避けたように思う。前掲した社会運動に関する定義に則るのであれば、「私たちはこのような理由で反対しています。みなさんどう思いますか。」としたうえで、議論というコミュニケーションを活性化すべきであった。そうすれば、共感者が出て社会運動に参加する人も増え、社会的影響力が増すことになる。社会的影響力が増加することによって最終的には政府や自治体が運動家の意見を聞かざるを得ないような状況を作ることができたというのに。

第4章 社会学者が主張する受益圏と受苦圏理論

確かに、言っていることの半分は理解できる。なぜなら、「押し付けている」という主張は環境社会学の「受益権と受苦圏」理論によって説明できるからだ。舩橋(2001)によれば、公害・環境問題を社会学的に分析する際、「なぜ問題が発生したのか」「犯人は誰か」「どのように被害が与えられたか」を明らかにする「加害・原因論」という考え方に、この「受益権と受苦圏」概念は分類される¹⁾。受益圏とは、「ある事業プロジェクトや社会制度によって、一定の受益を享受できる社会的な圏域」である。一方、受苦圏とは、「主体がその内部にいることによって、一定の被害・苦痛・危険を被らざるを得ない社会的な圏域のこと」である(舩橋2012:41)。つまり、受益圏とは新しいプロジェクトによって、良い影響を受けることができる人たちのことであり、今回の例では、米軍基地の移設というプロジェクトによって、安全保障という良い影響を受けることができる東京などの多くの日本人があたる。そして、受苦圏とは新しいプロジェクトによって、悪い影響を受ける人たちのことであり、今回の例では、米軍基地移設プロジェクトによって被害を被る現地の沖縄の人があたる。このような構造が存在するため、「現地のことも考えて」と言いたい気持ちは十分理解できる。しかし、それを具体的に伝えず、排他的とみられる発言をする社会運動家は、このような構造があること以前に「社会的使命としてのコミュニケーション」を重視しなくてはならない。話はそこからだ。

第5章 議論を避ける理由

 では、なぜ彼らは議論を避けたのか。今回の議論のみに注目すると、筆者は沖縄の社会運動が機能的合理性が実質的合理性を駆逐した状態になっているからであると考えられる。ウェーバー(1921-22)によれば、機能的合理性とは一定の結果がいかにすれば最も効率よく得られるかを冷静に計算する手段に従うことから成る理に適った思考である。つまり、「この目標を最短で達成するにはどうすれば良いのか」という「手段」に注目した考え方である。一方、実質合理性は「目的がなんであるのか」という原点に立ち戻って論理的に考える思考である。つまり、「本当にこの目的で良いのだろうか」という「目的」自体に注目した考え方である。しかし、マンハイム(1935)は、「目的」を考える実質的合理性が「手段」を考える機能的合理性によって排除され、社会のためにならないシステムの維持を行うようになると警鐘を鳴らしている。 

 これは今回の議論にも当てはめることができるだろう。本来であれば、「日本政府に辺野古移設反対を訴え、やめてもらう」という目的があった。だが、彼らは最も基盤であるはずの「なぜ反対を訴えているか」を発言していない。これは彼らが自分でも反対する理由を深掘りできていないことを示しているのではないだろうか。まさに、機能的合理性が実質合理性を駆逐した結果、「社会運動を何も考えずに行えば良い」という状況に陥っているものと考えられる。

第6章 社会運動家に求められる姿勢

 以上を踏まえて沖縄基地移設反対運動に携わる社会運動家がすべきことは、「我々は何のために行動しているのか」を深く考えたうえで、全国の人たちと謙虚にコミュニケーションを取り、仲間を集めることではないかと考えられる。

参考文献

¹⁾おそらく、社会学者の大多数は沖縄基地反対運動の人たちを絶賛するだろう。彼らは「受苦圏」の存在を必ず知っている。それに加え、バーガー(2021)によれば、社会学者とは少数派の発する悲鳴を代弁して、社会的空気を破壊する役割を担っているからだ。しかし、私はそれに物申したい。「ハーバーマス(1994)のいう『コミュニケーション合理性』を忘れてはいないだろうか」と。普段から「政府は実質合理性(目的をいかに効率的に達成するか)であるが、コミュニケーション合理性(皆で話し合って共通・合意した目標をつくってやっていくか)を大切にしろ」と批判しているにもかかわらず、今回はコミュニケーションを拒否しているとみられる彼らを批判していないどころか、応援の声まである。これは、いかがなものか。

『沖縄“座り込み”をめぐって物議に…ひろゆきは?反対派と抗議活動や基地問題を議論』ABEMA 2022年10月7日放送(https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p4192

浜嶋朗、竹内郁郎、石川晃弘編(2005)『社会学小辞典』有斐閣p.p.246

上野千鶴子、中西正司編(2008)『ニーズ中心の福祉社会へ』医学書院

小熊英二(2012)『社会を変えるには』講談社現代新書p.p.456

舩橋晴俊(2001)「環境問題の社会学的研究」飯島伸子, 長谷川公一, 鳥越皓之, 舩橋晴俊編『講座 環境社会学〈第1巻〉環境社会学の視点』有斐閣

舩橋晴俊(2012)『現代社会学ライブラリー2社会学をいかに学ぶか』 弘文堂

Max Weber(1921-22) Wirtschaft und Gesellschaft

Karl Mannheim(1935) Mensch und Geasellschaft im Zeitalter des Umb

ピーター・L. バーガー, 水野 節夫, 村山 研一訳(2021)『社会学への招待』ちくま学芸文庫

ユルゲン ハーバーマス (原1990), 細谷 貞雄, 山田 正行訳(1994)『公共性の構造転換』第二版 未來社

執筆:中部学生部