はじめに
初めまして。はるぴーと申します。私は現在東京大学農学部農業資源経済学専修に所属する4年生です。今回は、私が経験した大学院受験について書きたいと思います。
まず私は、現在所属している農学部からの進学先として一般的な農学・生命科学研究科ではなく、工学系研究科を受験、つまり同じ大学の異なる専攻を受験し、合格しました。同じように大学院で専攻を変えようと考えている人、東大の大学院を受験したい人の参考になれば幸いです。
経緯
さて、なぜそもそも他専攻を受験しようとしたのかについてですが、実は農業資源経済学専修はもともと私の第一志望ではありませんでした。「数理モデルを使って社会を分析したい」という理由で、そういった研究をしているシステム創成学科を志望していました。東京大学には進学選択という制度があり、まず1年次と2年次の前半は全員が教養学部に所属し幅広い分野の授業を受け、自分の成績と希望に応じて大学2年の後期からそれぞれの専門分野を学ぶために各学部学科に進学するというシステムです。私の成績はそこまでよくなかったため(平均よりやや下くらい)、第一志望の学科に行くことができなかったのです。とはいえ完全に不本意かというとそうではなく、経済学や公共政策にも興味があったので、それらとの関連もある農業資源経済学専修はまあ悪くはないかな、くらいの立ち位置でした。
さて、実際に農経に進学して授業を受けてみて、確かに農業政策やミクロ経済学など興味深い授業もあり、特に大きな不満はなかったのですが、それでもやはり「数理モデルを使って社会を分析したい」という希望を捨てきれなかったため、システム創成学科と関連する専攻である技術経営戦略学専攻、またはシステム創成学専攻の受験をしようと考えました。当初私は技術経営戦略学専攻を受験しようとしていましたが、その理由が試験科目が英語(TOEFL)と数理的思考に関する問題(大学数学の問題と、論文を読解してそれに関して論述する問題)のみで、システム創成学科の授業を受けていない私でも対策が比較的容易だったからです。一方システム創成学専攻は流体力学などの問題が出題されていて、物理が苦手な私には難しいと考えました。
事前準備(TOEFL編)
さて、先ほど述べた通り入試科目はTOEFLと数学です。このうち数学は大学4年の8月に試験が行われますが、TOEFLは自分で受験してスコアを提出する形式なので、いつ、何度受験しても構いませんでした。であれば、TOEFLを早めに受験してその後は専門科目の対策に専念しようということで、大学3年の秋ごろからコツコツとTOEFLの対策を進めました。TOEFLはリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの4技能全てが出題されるため難易度が高く、早めに対策を始める必要があったからです。ちなみに日本の大学院でTOEFLを要求するのは東大と京大くらいだと思います。しかも京大はTOEICとTOEFLの好きな方を選べるため、TOEFLが必須なのは実質東大だけです。つらい。
この時自分は英語で行われる授業を多少受けていたのを除けば英語に一切触れていなかったため、まずは基礎的な英語力を取り戻そうと思い、単語帳とリーディングの対策本を大学3年の10月ごろから始めました。最初は1000wordsくらいの英文を読むことさえ苦痛でした(笑)が、だんだんと慣れてきました。この時点では週に1〜2日、1日1時間程度しかTOEFLの勉強はしていませんでした。
1月下旬になると後期の科目の試験やレポートなどが終わり時間に余裕ができたので、このころからリスニングなど他の分野の対策にも手を付けました。TOEFLはリスニングだけでなくライティングやスピーキングも、会話や説明を聴いたうえでそれについて書く/話すといった形式の問題が出題されるため、リスニングは非常に重要です。そのためこの時期は特にリスニングに重点を置いて対策を行いました。
3月下旬にまず一回試しに受験し、試験形式に慣れた上で5月ごろに再度受験しようと決めたので、3月に入ってからはライティングやスピーキングの対策も行いました。ライティングは参考書に載っている問題を解いたうえで、英語が堪能な家族がいたので添削してもらいました。スピーキングについては、Camblyというサービスを使ってネイティブスピーカーと一緒に週2回、1回30分練習しました。最初は与えられた課題に時間内に回答を用意することさえできませんでしたが、練習を重ねていくうちに最低限形になる回答を話せるようにはなりました。
そして3月下旬に受験したのですが、結果は120点中84点でした。内訳はR26,L22,W19,S17と、リーディングとリスニングで稼ぐ形になりました。スピーキングは非ネイティブは得点を取りづらいと言われているため、妥当な結果だと思います。一般的に80点を超えれば不利になることはないと言われているので、ここで受験を終了しその他の科目に専念することにしました。
事前対策(専門科目編)
TOEFLが終わると次は専門科目です。技術経営戦略学専攻の数学では微分積分、線形代数、常微分方程式、確率統計が主に問われるので、その4つをマセマの参考書を使って勉強しました。微分積分でとにかく計算ミスが多くて苦労した記憶があります。
さて、ここで転機が訪れます。5月ごろに技術経営戦略学専攻の興味がある研究室を志望し、そこで自分の希望する研究テーマなどを話したのですが、そこで「こういう研究はうちでもできるけど、システム創成学専攻の○○研究室も見てみたらいいんじゃない?」とアドバイスを受けました。しかも、話を聞くとシステム創成学専攻は去年から試験形式を変更し、自分が志望する研究室と関連する分野の論文に関してレポートを書き、それをもとに評価する形式になったというのです。つまり苦手な物理をやる必要がなくなりました。近年の倍率を見ても技術経営戦略学専攻よりシステム創成学専攻の方が低く、もしかしたらシステム創成学専攻の方が入りやすいのでは?と考えたため、熟慮の末システム創成学専攻に志望を変更しました。微積や線形の勉強は無駄になりましたが、気にしないことにします。
受験
ということでシステム創成学専攻を受験することになったのですが、受験する際には出願が必要です。そしてここで志望動機と研究計画書を書く必要があります。といっても当然研究したいテーマに関しては素人のため、志望する研究室の教授が書いた論文などをいくつか読んだうえで、そこに書いてある手法を用いて別の研究対象を分析します、というような研究計画を立てました。専門科目は8月に問題が公開され、2週間以内に提出するという形式なので、事前の対策はあまり意味がなく、過去問が1年分だけあったのでそれを解くくらいしかやることはなかったです。
そして8月になりいよいよ問題が公開されます。しかし私はここである悲劇に見舞われます。なんとコロナに罹患してしまったのです。幸いにも喉の痛みやせきはそこまで酷くなかったのですが、39.0℃まで体温が上がってしまったため試験どころではなく、解熱剤を飲んでどうにか熱を下げて安静にしていました。3日間発熱してしまい、気付けば残りは10日。とはいえ頑張れば終わる分量だったので、コロナ罹患が試験に与えた影響はそこまで大きくなかったです。むしろ2週間という期間は分量に対して長いほどでした。
SNSでのデマの拡散や炎上などの分析も行っている研究室だったので、課題論文は「インターネット上のフェイクニュースの拡散メカニズム」でした。主に試験で問われたのは、フェイクニュースの拡散の歴史的経緯、この論文の限界やそれを解決するアイデア、関連する近年の研究や動向の3つでした。google scholarで調べた論文やフェイクニュースに関する書籍を読み漁り書き上げました。時間はかかりましたが、そこまで難しいとは感じなかったです。期限の前日までには完成させ、無事提出できました。
しかし試験はここで終わりではありません。研究計画について問われる面接と、今回提出した課題や論文そのものについて問われる口述試験があるのです。どちらもその分野の専門家から素人が書いた文章に鋭い質問が問われるため、恐ろしいことこの上なかったです。論文や研究計画書をじっくり読み込んだうえで、ある程度解説ができるようにしました。
そして口述試験当日。まずは予想通り研究計画に対して鋭い質問がバンバン飛んできました。「この手法でこのテーマを分析する意味が本当にあるんですか?」等と言われたりもしました。手法の正確性についても問われましたが、前日に先行研究を読み込んでおいたのでどうにか答えることができました。次は課題論文に対しての試問です。「この単語が何を示しているかわかりますか?」という質問が来ましたが、私は課題論文をdeeplで翻訳して読んでいたので答えられませんでした。皆さんはこうはならないようにしましょう。他にも難しい質問が飛んできて、どうにか答えたり答えられなかったりしました。
結果
合格発表は9月上旬に出ました。当時私は北海道を旅行していて、洞爺湖内にある中島という島で結果を見ました。湖の上で合否を知ったのは私くらいではないでしょうか。第一志望の研究室ではありませんでしたが、無事合格をいただくことができました。入試倍率は1.2倍程度と低い一方、私が志望していた研究室は人気が高いと聞いていたので、予想通りの結果でした。システム創成学専攻はもともと私が一番行きたいと思っていた専攻なので、無事合格することができてとても嬉しかったです。
そして災害対策やそのための都市シミュレーションなどを行う研究室に配属され、4月からはそちらで研究を行うこととなりました。研究室に話を伺ったところとても興味深い分野だったので、研究が今から楽しみです。
おわりに
以上が私の大学院受験です。成功した点、失敗した点どちらもあるので、前者は参考にし、後者は真似しないようにしていただければと思います。皆さんも「今の研究テーマとは別の分野の研究がしたい」と思ったら、ぜひ他専攻や外部の受験を考えてみてください。意外とハードルは高くないので、もっと選ぶ人が増えれば嬉しいです。それではみなさんの大学院受験の成功を祈って、本記事の締めといたします。