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マスク社会を考える – 日本人はマスクを外せるか

はじめに

本稿においては新型コロナとマスク着用をテーマに、日本社会の現状と課題について論じる。新型コロナは、2020年3月11日WHOがパンデミック宣言をしてから、約2年半が経過した。感染状況に合わせ、各国は予防策を変化させてきた。

例えば、公共の場でのマスク着用については以下のような変化が見られる。アメリカでは、2021年4月から2022年4月にかけて、着用率が69%から45%へと24ポイント低下した。ドイツ、フランスは70%台から50%台へ、ともに20ポイント低下した。

しかし日本では、89%から87%と、わずか2ポイントの低下に留まった(日本リサーチセンター/英YouGov社による調査、世界14か国対象)(Web①)。

日本の着用率が依然として高いのは、他の先進国よりも感染リスクが高いためと推測できるが、実際は異なる。2022年11月13日時点での感染者数(累計)あたりの死者数を比較すると、アメリカが死亡率約1.0%、フランス0.5%、イギリス0.9%に対して、日本は約0.2%だ(Web②)。 このデータを考慮すると、日本の着用率の高さは単純に「感染予防のため」とは言えない事が分かる。なぜ日本がマスク着用に拘るのか、本稿でその背景を探る。

概要 新型コロナウイルスとマスクの予防効果

はじめに新型コロナウイルスの基礎知識と、感染症におけるマスクの予防効果について触れておきたい。

新型コロナウイルスの多くは、感染者の唾や咳・くしゃみの飛沫に含まれている。そのため最大の感染経路として、飛沫感染と空気感染を挙げることができる。そしてマスク着用の目的は、飛沫感染を防ぎ、ウイルスを侵入させないことと、ウイルスを周囲に飛散させないことだ。

さらに、マスクは顔を触る頻度を下げ、指からのウイルス侵入を防げることも挙げられる(堀、2020)。

1章 日本の現状と問題点

マスクの予防効果を理解した上で、日本の現状と問題点について述べていきたい。WDC(保険ガイド「リアほ」を開発・運営する)は、「屋外でのマスク着用」に関するアンケート調査を行った(令和4年9月30日実施、調査方法:インターネット調査、対象:20~59歳の男女300人)。

その結果、屋外で人との距離を十分に保てる場合、マスクを外しているかとの質問に54.0%が「外していない」と回答した(Web③)。

「屋外における十分な距離」とは、飛沫の飛距離(2m)以上であるため、マスクがなくても感染予防は可能な状況といえよう。また厚労省、コロナ分科会が屋外での必要に応じた着脱を呼び掛けていることから、屋外での着用は根拠に基づかない。

根拠に基づかないマスクの着用は他にもある。感染リスクの高い家庭内で、マスクを着用する人が少ないことだ。家庭内感染のリスクは、「最初の感染者からうつされた人数/家族の総人数」で表すことができるが、その平均値は16.4パーセント。これは社会一般のいわゆる濃厚接触で感染するとされる割合の3倍にも達する数字だ( Madewell ZJ, Dec 14, 2020) 。

このデータを見れば、家庭内マスクは他のどの場面よりも必要だと分かる。

だが、実際は異なる。株式会社ベネクス(休養時専用の「リカバリーウェア」を開発、製造、販売)が、自宅でのマスク着用に関するアンケートを行った(実施期間:2020年10月28日~30日、調査方法:インターネット調査、対象:全国20代以上の既婚者 男女330名)。その結果、「自宅でマスクをしていますか?」という質問に対し、79.1%が「していない」と回答した(Web④)。

感染リスクの低い屋外でマスクを着用し、リスクの高い家庭内で着用しないことは矛盾している。このように、科学的根拠に基づかない「矛盾した行為」が課題といえる。

 

2章 日本社会におけるマスクの意義とその弊害

1節 マスクの社会的意義

このような矛盾した行為は、マスクの着用が、日本社会において予防以上の意味を持っているからではないだろうか。例えば、屋外でマスクを外さない理由(WDCアンケート結果)として、50代では「屋外でも感染対策を行いたいから」が57.78%と過半数を占めているのに対し、それより下の年代では「まわりの目が気になるから」「マスク着用に慣れてしまい、恥ずかしく感じるから」などに回答が分散した。

「まわりの目」「恥ずかしい」というキーワードに着目すると、マスク着用は(とくに若い世代にとって)周囲の存在が1つの基準となっていることが分かる。また周囲の存在が着用の基準となるならば、プライベート空間(周囲の目が少ない場所)で着用率が低いことにも納得できる。

周囲の目を気にする背景には、トラブルに巻き込まれたくないという思いもあるのではないか。2020年9月7日、北海道の釧路発関西空港行きの旅客機の機内でトラブルが起きた。感染防止のためマスクをつけるように求められた男性が、着用を拒否して乗客や客室乗務員を威嚇したのだ。男性は臨時に新潟空港で降ろされた(Web⑤)。交通機関を降ろされれば、目的地へ遅れたり他の乗客にも迷惑をかける。実名報道されれば社会的地位を失いかねない。また、航空法に基づく運送約款の規定では、マスク着用を拒んだ旅客の搭乗により他の旅客に不快感や迷惑を及ぼすおそれがある場合は、搭乗を拒否することができる(Web⑥)。不着用者への降車取り決めは航空機だけでなく、バスでも検討されており不着用への対応は厳しいものとなっている。

不着用者としてトラブルに巻き込まれるならば、人目に着くところでは着用しておこうという心理が働いているのではないか。

2節 世間体を前提としたマスク着用の弊害

マスク着用が周囲の存在に左右されると、さまざまな弊害が生まれる。ここでは主に2つの弊害を上げる。

1つ目は、健康被害に関することだ。例として、正しい感染予防ができずかえって感染が拡大することが挙げられる。第1章で、家庭内感染のリスクは一般社会と比べて3倍であると述べた。「家庭内は人目につかないから」という理由で、マスクを着用しなければ家庭内感染が拡大し、社会全体に影響が出る。

2つ目の弊害は、「空気による支配」の助長だ。空気による支配とは即ち「人が監視し合い行動を規制すること」である。この問題は、パンデミック当初から問題視されてきた。例えば、緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置は法的拘束力がなく、ワクチン接種とマスク着用は、義務化されていない。新型コロナを巡るさまざまな制約は、要請という形で実現し、罰則は他人や世間からの非難という「私刑」に頼る側面があった。特にマスクの着用は公共交通機関の利用においても罰則がないため、ワクチンや行動制限以上に「私刑」に頼ることとなり、空気の支配を助長する。

作家で参議院議員の猪瀬直樹氏は、太平洋戦争の開戦前に開かれた御前会議と新型コロナ対策本部を重ね、意思決定の過程が不明瞭であることを指摘した(Web⑦)。空気による支配は、戦前からの課題であり、敗戦のような大きな損害に繋がることが分かる。

以上2点が、弊害として考えられる。特に2点目は、日本社会全体に損失を及ぼす影響がある。したがって次章では、空気による支配を打破し、適切な着用を促す方法を考える。

 

3章 適切な着用を促すためにできること

厚労省や分科会は「十分な距離を保ち、会話の制限があれば、屋外での着用は必要ない」と提言した。では、この条件下で「不着用」を促すにはどうすればよいか。

1つ目の案として、「十分な距離が保たれ、会話の制限がある状況」を具体的に示すのはどうか。例えば「2mの間隔を開けて一人で歩いている時」と提言したり、考えられる状況をグラフィック化するのも良い。「不着用でも許される状況」を共有することで、マスクを外す抵抗感は減るのではないか。

また、政府関係者が実際にマスクを外して生活する姿を見せるのはどうか。猪瀬参議院議員は、10月20日の参議院予算委員会でマスクを外し、答弁に臨んだ。このように政府関係者や分科会、専門家らが、自らの提言を実行することから始めてはどうだろうか。

以上2つの案をもとに、適切な着用を促す方法を考えた。

 

おわりに

本稿は、マスク社会をテーマに、日本の現状と課題を論じた。マスク着用には、世間体や他人の存在が大きく関わっていることが分かった。

また、世間体を前提としたマスク着用は空気による支配を助長し、日本社会に弊害を与えることを指摘した。

最後に、マスクの適切な着用を促す方法を考えた。マスク社会という常態化した現実を変えることが、日本を改革する一歩となるのではないか。

 

参考文献

①堀 成美,(2020),『今日からできる!暮らしの感染対策バイブル』主婦の友社

②Madewell ZJ, ( Dec 14, 2020)Household Transmission of SARS-CoV-2 , JAMA Network Open 3 (12),3-5

Webから

①日本リサーチセンター『【新型コロナウイルス感染症自主調査】新型コロナウイルスに対する予防策として、「公共の場ではマスクを着用する」の回答率~世界14か国を比較~』(2022/5/26) | 市場調査・日本リサーチセンター(NRC)

https://www.nrc.co.jp/nryg/220526.html

②JOHNS HOPKINS   UNIVERSITY MEDICINE『COVID-19 Dashboard』(2022/11/13)

https://www.nrc.co.jp/nryg/220526.html

③コネムラメグミ,『300人にアンケート 屋外でマスク「外してない」が54% 理由は?』ITmediaビジネスONLINE(2022/10/18)

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2210/18/news081.html

④株式会社ベネクス,「自宅ではマスクをしていない人が約8割 大切な家族を守るための“おうちdeマスク”」BetoBeプラットフォーム業界ch(2020/12/24)

https://b2b-ch.infomart.co.jp/news/detail.page?IMNEWS4=2327123

⑤NHK「乗客の男性 マスク着用拒否 旅客機が新潟空港に臨時着陸」(2020/9/8)NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200908/k10012607501000.html

⑥厚生労働省,「資料2マスク不着用者・発熱者の搭乗拒否の根拠について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000852050.pdf

⑦川智也,『太平洋戦争は「不決断」と「空気」によって始まった~猪瀬直樹が問う「12月8日」とコロナ危機』朝日新聞デジタル論座(2021/12/8)

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021120700010.html

 

執筆:広域学生部