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アフターコロナの病床削減(地域医療構想)

病床(ベッド)不足を経験しても尚、我々は病床削減を止めるべきでない

地域医療構想×コロナ 

 あまり耳馴染みがないかもしれないが、厚生労働省の主導で病床機能の最適化(全体としては病床削減)や医療機関の役割分担や在宅医療の推進による、国民医療費削減や医療サービスの質の向上等を推進する「地域医療構想」が2025年に向けて進められている。

 それと同時に2020年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が起きている。筆者は此度の感染拡大が、いたずらに地域医療構想を否定するために悪用されること、誤解を生んでしまうことを懸念しており、それらが現実となる前にその不適当さを示すことを本コラムの目的としている。

擁護者の危うさを越えて

 まず基礎知識として。病床は①一般病床(890,700床)②療養病床(319,500床)③精神病床(331,700床)④結核病床(3,500床)⑤感染症病床(1,900床)に分類される。その中で、厚生労働省で推進される地域医療構想では、①一般病床と②療養病床の再編・適正化が大きな柱となっている。(地域医療構想についての詳細は後日記述する予定)

 先の前提知識をもとに以下考えてもらいたい。先日、「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて不足したのは⑤感染症病床であって、地域医療構想で再編の対象とする病床ではない。そのため、今回の新型コロナウイルスでの病床不足を理由にして地域医療構想の病床再編を否定するのは的外れだ」という主旨の記述が土居丈朗 慶応大学経済学部教授によりなされた(『コロナで医療崩壊しかねない日本の医療の弱点』東洋経済オンライン、https://toyokeizai.net/articles/-/342168?page=3)が、これには誤りがある。感染者数が感染症病床数を上回ることが危惧され、2月10日の段階で厚労省より一般病床等の確保が依頼され、実際に一般病床等の活用がなされたためである。とはいえ、新型コロナウイルス感染拡大で病床の余剰分が機能した面はあるだろうが、「病床再編を止めるべきである」「削減幅を小さくするべきである」とは筆者は考えない。何故か。以下、⑴病床の確保可能性⑵経済面の観点から検討する。

一般病床の余剰は次なるコロナに役立つのか

 まず、⑴病床の確保可能性の観点から。今回の新型コロナウイルス感染拡大と同様の事態では、他の診察・治療目的で来院する患者が減ること、手術等のスケジュールをずらせること、入院期間の短縮も手段として取り得ることなどから考えるに、病床の空きが増える(または増やせる)状況であると考えられる。

 また単に病床が必要なのであれば、今回実際にそうしたようにホテル等のベッドを活用すればよい。観光客の減少で稼働率が大幅に低下するのだから。もちろんホテルやそのベッドとは異なり、病室や病床には様々な工夫がなされており完全に代替可能なものではない。しかしながら軽症者を中心に一定代用可能なものであることに違いはない。また、重症患者の割合が高くてホテルでは治療し得ないという場合も考えられる。ただその場合に、一般病床であれば救えるのか。治療に必要なのは、人員と機器であって、病床ではないだろう。

 つまり、次なる感染症に向けて恒常的に余剰を抱えることのメリットは極めて薄いのである。

余剰を保つことは合理的か

 次に、⑵経済面から検討する。前提として一般的に病床の空きがあれば病院側は埋めようと努めるものである。敢えて言えば、空き病床が入院患者をつくり出すのである。そのことを踏まえると、次なる感染症のために病床を余剰に抱えることで恒常的に国民医療費が増加してしまうのである。さてここで重要になってくるのは、そこに正当化できるだけの経済的合理性があるかどうかである。

 少し具体的に考えていく。1病床削減による医療費削減効果は、大まかに年間730万円(1日当たり20,000円と控えめに仮定)程度と思われる。15~20万床の削減が想定されている地域医療構想の病床削減計画のうち、次なる感染症に向けて一般病床に1万床の余裕を持たせるとすると、73億円分の入院費が毎年生じると計算される。10年ごとに今回のような感染症拡大が起こるとすると、1サイクルで730億円の無駄な支出をすることになる。改めて言うが、病床再編を止める云々ではなく、病床再編の中で1万床の追加的な余力を持たせるかどうかの話である。この730億円の大きさを理解するために、令和2年度第一次補正予算を例に出すと、人工呼吸器・マスク等の生産支援117億円、アビガンの確保139億円、産学官連携による治療薬等の研究開発200億円、国内におけるワクチン開発の支援100億円、国際的なワクチンの研究開発等216億円となっている。いかに病床に余力を持たせることがいかに大きな経済的負担であるか、非合理的なコストであるかわかるのではないか。単なる病床にコストを払うのではなく、人工呼吸器や人工肺、ICU(集中治療室)に投資した方が救える命が増えるだろう。

 此度の新型コロナウイルス感染拡大は病床再編を推進することを否定する理由になり得ないだろう。簡単にではあるが、新型コロナウイルス感染拡大による病床不足に過敏になり、安易に地域医療構想を否定してしまうことの愚を少しでも感じられたのではないか。

日本の医療と関連産業の今後

 少子高齢化の先頭を走る日本は課題先進国であり、医療・介護分野のノウハウ・機器類を海外輸出していくべきであるという主張はしばしば目にする、耳にする。しかし医療機器に関していえば、16,500億円(国内市場分の55%)を輸入している一方で輸出は6,200億円にとどまり、1兆円を超える輸入超過となっている。つまり現状、医療機器の海外輸出はかなり厳しい(診断系医療機器は輸出超過)。

 そこで、病床再編により確保した財源(国民医療費のうち5割保険料、4割税金、1割患者負担となっており、医療費削減により浮く税金)の一部を投じ、必要に応じた集中治療室(ICU)や新生児集中治療室(NICU)等の拡充、過度な規制の緩和、医療分野の研究投資予防医療の推進等を進めていき、ピンチをチャンスとして生かし、日本の医療関連企業・技術・知的財産が世界で活躍する産業の一つの柱と化すことを期待する。

 最後に、何らデータの裏付けのない期待と願望を記す。筆者の高校時代の理系の優秀な友人の多くが医学部に進学した。筆者としては、日本最大の成長のための余力がここにあると考えている。国内の市場や既得権益に縛られることなく、彼らがより良好な環境で研究でき、柔軟な思考で先端技術を活用して診察・治療にあたることができれば、日本の医療や関連技術はより世界に通用するものとなり、日本全体を率いる存在になり得ると期待している。だからこそ、政府や職能団体には過度な規制や既得権保持に固執せず、先般なされたオンライン診療解禁のように、広く国民とその後の世代まで見据えた政策実行・判断がなされていくことを筆者は望んでやまない。

 

関東学生部 Kota

*本稿は個人による執筆であり、党や学生部の共通認識・共有された見解ではありません。